DeepSeek値上げ+アリババ2.4兆旗艦オープン+GLM-5.3躍進
中国LLMは2026年8月なぜ「変陣」したのか

わずか5日のあいだに、中国の主要AIラボ3社が、表面では矛盾して見える手を打ちました。DeepSeekは一部区分で最大1100%のAPI値上げに踏み切りました。アリババはこれまで出したことのない2.4兆パラメータの旗艦をオープンウェイト化しました。智譜はGLM-5.3を投入し、同一の基盤モデルのまま、再学習なしでコーディングベンチマークをおよそ6倍に引き上げました。本稿では、開発者と調達担当者向けに、タイムライン、料金表、3つの戦略、直接比較、争点、よくある質問を順に整理します。共通の信号は明確です。中国のラボは、安さだけの競争から、価格決定力の競争へ移っています。

01

タイムライン:何が、いつ起きたか

いちばん多い誤りは、「1100%」を請求書全体だと捉えることです。まず日付を押さえ、課金の次元、ライセンスの種類、ベンチマークの出典を分けて読んでください。

日付出来事
2026年7月16日Moonshot AIがKimi K3(2.8Tパラメータ)をオープンウェイト公開し、米国の安全保障当局の注目を集める
2026年8月2〜3日アリババがQwen3.8-Maxをプレビューし、続けてホスト型APIとして正式公開
2026年8月10日MetaがMuse Glimmer(30B、Apache 2.0)を公開し、旗艦Muse Spark 1.2のオープンウェイトを予告
2026年8月12日アリババがQwen3.8-2.4T-A95BのオープンウェイトをHugging Face / ModelScopeに公開。xAIがGrok 4.6を投入
2026年8月13日DeepSeek-V4-ProがGAとなり、8月17日発効の値上げを発表。Googleが値下げしたGemini 3.7 Flashを投入
2026年8月14日智譜がGLM-5.2の743Bベースを再利用したGLM-5.3を投入
2026年8月17日 00:00(北京時間)DeepSeekの新料金が発効

視野を広げると、7月30日にOpenAIは最安区分(GPT-5.6 Luna、80%値下げ)を切り下げ、8月6〜7日にはLunaを無料の既定モデルとし、テキストチャットを無制限にしました。中国のラボが値上げと旗艦ウェイト公開を進める同じ時期に、米国のラボは値下げし、消費者層を無料へ寄せています。同じ価格競争の、裏表です。

見出しを引用する前に捨てるべき6つの誤読

  1. 01

    1100%を請求書全体とみなす。その数字はピーク時間帯のキャッシュヒット入力であり、もともとほぼ無料に近い区分です。

  2. 02

    北京時間のピーク枠を無視する。ピークは北京時間の9時〜12時と14時〜18時です。発表は負荷の時間帯をずらすよう求めています。

  3. 03

    オープンなチェックポイントをすべてApache 2.0と呼ぶ。Qwen3.8-Maxは独自ライセンスです。Muse Glimmerは別の賭けです。

  4. 04

    地域禁止の噂を繰り返す。公開ライセンスに、米国/EU/英国/韓国の領域条項はありません。

  5. 05

    GLM-5.3を新しい基盤モデルと読む。ベースは5.2と同じ743Bです。伸びは後学習の強化学習規模です。

  6. 06

    中国モデルはいまでも最安だと決めつける。オフピークのDeepSeekはClaude Opus 5を下回ります。LunaとQwenの国際料金は、いまやDeepSeekを下回ります。

02

数字:実際に何が変わったか

以下の料金はDeepSeekの公式発表に基づき、Wall Street CN、IT Home、V2EXで照合しています。GLMのスコアは智譜の自己報告です。第三者による独立した再計測は、本稿執筆時点では公開されていません。

DeepSeekの値上げ、区分ごと

発効は2026年8月17日 00:00(北京時間)。ピーク時間帯は北京時間の9時〜12時および14時〜18時。単位は100万トークンあたりです。

課金項目旧料金新・オフピーク新・ピークピーク上昇
V4-Flash キャッシュヒット(入力)¥0.02¥0.05¥0.10~400%
V4-Flash キャッシュミス(入力)¥1.0¥1.5¥3.0200%
V4-Flash 出力¥2.0¥4.5¥9.0350%
V4-Pro キャッシュヒット(入力)¥0.025¥0.15¥0.30~1,100%
V4-Pro キャッシュミス(入力)¥3.0¥4.5¥9.0200%
V4-Pro 出力¥6.0¥13.5¥27.0350%
info

文脈:見出しの1100%は、ピーク時間帯のキャッシュヒット入力にだけ当てはまります。実請求の大半を占める出力料金は350%上昇しました。独立したコスト試算では、現実的な高負荷(およそ84Mトークン/月、大半がオフピーク、ヒット率半分)の請求増加は1.8x前後です。

Qwen3.8-2.4T-A95B(Qwen3.8-Maxオープンウェイト)

仕様内容
パラメータ総計2.4T、トークンあたり活性95B(MoE、512エキスパート、ルーティング10+共有1)
コンテキスト窓ネイティブ262,144トークン(オープンチェックポイント)、約1.01Mまで延長可能。ホスト版Maxの既定は1M
公開の流れ8月2日プレビュー → 8月3日API公開 → 8月12日オープンウェイト
API料金(国際)入力$2/M、出力$6/M
ライセンスApache 2.0ではない。独自のQwen3.8-Max License
意義アリババがMax級旗艦をオープンウェイト化したのは初めて。Qwen3.5 / 3.6 / 3.7 MaxはAPI専用のままだった

GLM-5.3対GLM-5.2:同じベース、後学習のみ

ベンチマークGLM-5.2GLM-5.3変化
Terminal-Bench 3.04.6%28.3%+23.7 pts
DeepSWE v1.146.2%66.9%+20.7 pts
Agents' Last Exam (CLI)23.8%28.5%+4.7 pts
CyberGym77.2%84.5%+7.3 pts
AutomationBench26.2%48.2%+22.0 pts
warning

注意:これらは智譜の自己報告です。GLM-5.3はTerminal-Bench 3.0でGPT-5.6 Sol(34.6%)とClaude Fable 5(33.7%)にまだ届きません。オープンウェイトとしては上位ですが、フロンティアを単独で制したわけではありません。

03

3つの戦略を分解する

3つのラボ。3つの打ち手。根底の問いは一つです。利用量がGPUを上回り、事前学習の収穫が鈍るとき、価格決定力を握り続けるのは誰か。

DeepSeek:時間帯別料金は容量の問題

いちばん安易な読みは、「中国で最安だったモデルが、ついに利益率の圧力に折れた」です。料金表の構造は、むしろ逆に読めます。計算資源の制約を、価格に可視化した会社です。常時安価な一律料金は、GPU容量が需要に追いついているあいだは顧客獲得の道具として機能しました。利用が指数関数的に伸び、容量が追いつかなくなると、どこかを明示せざるを得ません。「より柔軟なワークロードスケジューリングを促す」は、企業語で言えば「ピーク時間帯の計算資源はいま希少なので、負荷は自分でずらしてください」です。

海外報道がほとんど触れなかった一点があります。ピーク時間帯では、DeepSeek公式APIの単価が、複数のサードパーティ再販(GMI Cloud、Novitaなど。現時点でV4 ProをDeepSeekの新ピーク料金より低く掲げています)を上回っています。公式APIがDeepSeekを動かす最安の経路だという前提は、初めて崩れました。

アリババ:オープンウェイトでマインドシェアを取り、独自ライセンスで天井を守る

アリババは同時に二つのことをしました。2.4Tパラメータのチェックポイント全体を無料ダウンロードで公開し、小型Qwenに使ってきた寛容なApache 2.0ではなく、独自ライセンスを付けました。連続する12か月で$50M超の売上があるModel-as-a-ServiceまたはAI Work Assistant事業は、別途の商用ライセンス交渉が必要です。月間アクティブユーザーが100M超、または月次売上が$20M超の製品は、モデル名を目立つ形で表示しなければなりません。

ウェイトを無償で渡し、とくに海外の開発者マインドシェアを取る。その上に競合する推論事業を建てられる一握りの企業に対しては、価格交渉力を残す。これは、制限なしのApache 2.0で出すMetaのMuse Glimmerとは、質的に異なる賭けです。

info

潰すべき噂:アリババのライセンスが米国、EU、英国、韓国からのダウンロードを禁じている、という主張は誤りです。公開ライセンス本文に、地理的・領域的な条項は一切ありません。発表スレッドではなく、LICENSEファイルを確認してください。

GLM-5.3:新しい基盤モデルではなく、後学習への大きな賭け

いちばん興味深いのは手法です。GLM-5.2と同じ743Bパラメータのベース、再学習なし、後学習で強化学習環境を拡大しただけで、Terminal-Bench 3.0がおよそ6倍(4.6% → 28.3%)です。事前学習のスケーリング則が収穫逓減を示すなか、後学習の強化学習規模は、新しい基盤モデルを再学習するよりはるかに低いコスト床で効く、独立した性能レバーになりつつあります。OpenAI級の計算予算を持たない中堅ラボでも、エージェント系とコーディングのベンチマークでは差を詰められます。

中国のAIラボは、価格そのものの競争から、価格決定力そのものの競争へ移っています。

04

直接比較:DeepSeekはいまも最安のフロンティア級モデルか

人民元から米ドルへの換算はおよそ¥7.15/$1です。公式発表と食い違う場合は、公式を優先します。

モデル入力(100万トークンあたり)出力(100万トークンあたり)オープンウェイトか
DeepSeek V4-Pro(ピーク)¥9.0(約$1.26)¥27.0(約$3.78)いいえ
DeepSeek V4-Pro(オフピーク)¥4.5(約$0.63)¥13.5(約$1.89)いいえ
Qwen3.8-Max(国際API)$2.00$6.00はい(独自ライセンス)
OpenAI GPT-5.6 Luna$0.20$1.20いいえ
Claude Opus 5(アリババ比較比率からの示唆)約$5.00約$25.00いいえ

短い答えは、いいえです。DeepSeek V4-Proのオフピーク料金はClaude Opus 5を大きく下回りますが、もはや単独の最安ではありません。Qwen3.8-Maxの国際料金とOpenAIのLunaは、DeepSeekのオフピークを下回っています。「中国モデル=最安モデル」は、2025年の大半と2026年初頭までは成り立ちました。いまは安全な前提ではありません。

値上げ後の6手順:請求書、ルーティング、ライセンス

  1. 01

    請求書を3列に分ける。キャッシュヒット入力、キャッシュミス入力、出力です。1100%の見出し一つで予算を組まないでください。

  2. 02

    ジョブを北京時間のピークに対応付ける。9時〜12時と14時〜18時(北京時間)はピーク課金です。可能なバッチは残りの17時間へ回してください。

  3. 03

    キャッシュヒット率を測る。試算した高負荷(約84Mトークン/月、大半がオフピーク、ヒット率半分)は、12倍ではなく1.8x前後です。

  4. 04

    公式ピークと再販を比べる。GMI CloudとNovitaは現時点で、V4 ProをDeepSeekの新ピークより低く掲げています。公式が自動的に最安ではありません。

  5. 05

    商用利用の前にLICENSEファイルを読む。Qwenの発動条件は、MaaS/AI Work Assistantの売上$50Mと、帰属表示のための100M MAUまたは月次売上$20Mです。地域禁止はありません。

  6. 06

    GLM-5.3を後学習のレバーとして受け止める。公式のTerminal-Bench 3.0は28.3%対4.6%です。Solの34.6%、Fable 5の33.7%には届きません。その前提で検証してください。

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# DeepSeek V4-Pro 出力(100万トークンあたり、公式料金表)
旧・一律料金:   ¥6.0
新・オフピーク:  ¥13.5   (旧比+125%;ピークの半分)
新・ピーク:      ¥27.0   (旧比+350%)

# 見出しを引用する前の3つの問い
1) キャッシュヒット入力、キャッシュミス入力、出力のどれか?
2) ピークかオフピークか?
3) 実際のキャッシュヒット率はいくらか?
05

争点、意義、引用できる3つの数字

争点、または未確認のもの

  • 1100%という見出しは技術的には正しいが、文脈なしでは誤解を招きます。当てはまるのはピーク時間帯のキャッシュヒット入力だけです。出力料金は350%上昇しました。媒体によって、異なる区分を全体像であるかのように引用しています。
  • Qwen3.8-Maxがアリババ自社のZhenwu M890チップ(および「Pangu AL128」スーパーノード)で動いている、という複数の中国金融メディアの報道は、アリババ自身の技術文書や第三者ベンチマークでは独立確認されていません。ベンダー周辺の未確認報道として扱ってください。
  • GLM-5.3がCursorの「重大な脆弱性」を発見したという報告は、VentureBeatと智譜自身の開示に由来します。具体的な技術詳細は公開されていません。ベンダー発信であり、独立監査は未了のセキュリティ所見として読んでください。
  • 中国商務部がAI/半導体技術への報復的な輸出規制を準備しているという報道は推測であり、公式発表ではなく未確認のメディア報道に依拠しています。

並行して走る二つの価格戦争

おおよそこの1か月、中国の主要ラボは、国内金融メディアが「一周三更」(週に3回のモデル更新)と呼び始めたペースで大型リリースを重ねています。DeepSeek、アリババ、智譜に加え、MoonshotのKimi K3(7月16日にオープンウェイト、2.8Tパラメータ)とMiniMax H3です。中国側の報道は総じて、中国のオープンウェイト公開が、世界のAI産業に再価格付けを強いている、と枠付けています。

米国のラボは、消費者層では逆の手を打っています。OpenAIは最安区分を80%値下げし(7月30日)、1週間後にそのモデルを無料かつ無制限にしました(8月6〜7日)。Googleは、3週間前の前世代の半額でコーディング特化モデルを投入しました(8月13日)。中国のラボは旗艦をオープンウェイト化し、計算資源が逼迫する最上段には段階的で高い料金を導入します。米国のラボは、消費者端で無料と安さへ走っています。

地政学の層も、慎重に名前を付ける価値があります。MoonshotのKimi K3オープンウェイトは、7月の時点ですでに米国の安全保障当局の注目を集めました。アリババがこの窓で2.4T旗艦をオープンウェイト化したことを、一部の分析者は、規制が締まる前に海外マインドシェアと「技術的対等」の物語を固定する動きだと読んでいます。それは根拠のある解釈であり、確認された事実ではありません。英語の製品投稿だけを読んでいると、見落としやすい点です。

引用できる数字(公開時点)

  • DeepSeek V4-Proのピーク出力:100万トークンあたり¥27.0。¥6.0から350%上昇。キャッシュヒット入力は¥0.025 → ¥0.30、約1100%。
  • Qwen3.8-2.4T-A95B:総計2.4T/活性95B、MoE 512エキスパート(ルーティング10+共有1)、ネイティブ262,144トークンのオープンチェックポイント。
  • GLM-5.3のTerminal-Bench 3.0:公式28.3%(5.2は4.6%)。GPT-5.6 Solの34.6%、Claude Fable 5の33.7%には届かない。

出典:DeepSeek公式の料金発表(Wall Street CN、IT Home、AIGC.cn、V2EXで照合)。アリババ公式のQwenリポジトリ(Hugging Face / ModelScope)と、ライセンス条項に関するSouth China Morning Post。智譜(Z.ai)のGLM-5.3技術ページ、ならびにVentureBeatとStableLearn。Meta AI Researchの公式ブログ。公開ペースに関する中国金融メディア(Yicai、Sohu Finance)。再掲の前に、最新の公式料金とライセンス条項を確認してください。上で未確認とした細部は、独立確認されていません。

ピーク/オフピークのAPI料金は、「常時稼働の旗艦推論」を高く、見通しにくくします。2.4TのMoEを自前ホスティングするのはデータセンターの問題であり、ノートPCの問題ではありません。再販業者はピーク単価を削れますが、本番のエージェント、Xcodeビルド、長時間セッションを共有推論キューに置くと、隔離は弱いままです。iOSのCI/CDとAIエージェント自動化に合う、より安定した本番環境としては、NodeMiniのMac Miniクラウドレンタルが通常より適しています。専用のApple Silicon、ノード単位の課金、同じGPU請求書を北京のピーク時間帯と奪い合う必要はありません。

FAQ

よくある質問

オフピーク料金はいまもClaude Opus 5より安いですが、全体として最安の選択肢ではなくなりました。OpenAIのGPT-5.6 Luna(100万トークンあたり$0.20/$1.20)とアリババの国際向けQwen3.8-Max料金($2/$6)は、少なくとも一つの次元でDeepSeekの新しいオフピーク料金を下回っています。共有ピーク時間帯のキューからコーディングエージェントを外したい場合は、Mac Miniレンタル料金を比較してください。

ほとんどの用途では可能です。個人プロジェクトと社内利用は影響を受けません。例外は、連続する12か月で$50M超の売上があるModel-as-a-ServiceまたはAI Work Assistant事業を運営している場合だけです。その区分は、アリババとの別途商用ライセンスが必要です。

いいえ。オンラインで広まったその主張は誤りです。公開されているライセンスに地理的制限は一切ありません。制限は売上に基づくものであり(サービスがいくら稼ぐかに結び付きます)、利用者やユーザーの所在地には結び付いていません。

基盤モデルの水準では違いはありません。どちらも同じ7430億パラメータの基盤モデルを使っています。性能向上(Terminal-Bench 3.0でおよそ6倍)は、後学習で強化学習を拡大したことだけに由来し、基盤モデルの再学習はありません。

まだです。Muse Glimmerは30Bの蒸留モデルであり、Metaの本命旗艦ではありません。CEOのMark Zuckerberg氏は、より大型で非公開のMuse Spark 1.2のオープンウェイトが「近く」公開されると述べています。本稿執筆時点では、その公開は起きていません。表明された意図であり、確認された事実ではありません。隔離とアクセスの注記はヘルプセンターにあります。